P. のアニメ「色づく世界の明日から」は、青春小説として時代を超えて読み継がれるレベルの傑作だった。作品の中心を「色彩」という1本の太いテーマが貫いていて、魔法が実在する世界観としっくりなじんでいる。なぜなら色彩(美術)と魔法は古来、同じルーツだからだ。 アニメはもともと色彩感覚に強い表現形態だと思うが、それでいて真正面から色彩をテーマにした例は少ない。絵画や写真をモチーフにするアニメ作品はあっても、色覚を失うということを描いた作品は、寡聞にして知らない。 ヒロインがなぜか色覚を失っているという設定で、その色を紆余曲折の末に取り戻すという大きな流れが全体の骨格を成しているが、ストーリーは正統的な青春部活ものだ。恋と友情と部活、学生生活のあれこれをバランスよく配置している。その隙間を埋めるように魔法の修行と、失った色彩という謎がスパイスを効かせている。物語の進行に従ってキャラたちの心の成長が描かれ、全13話に入るギリギリの分量に青春の一コマを詰め込んでいる。 取り戻した色彩の意味、過去と現在の関係性などは詳細に説明されず、視聴者が自分で解釈する余地も残っていて、全てを説明し尽くさないところが小説的だ。設定上の説明過多になる弊害をうまく避けて、あくまでも小説的、フィクション的に物語が進むのが心地よい。 作中の淡い(淡すぎる! )恋愛模様も、実際には高校生の恋愛ってこんな感じではなかったか、と年配の視聴者にも懐かしく思い起こさせる巧みさだ。 内容的にも映像的にも、近年稀にみる完成度の高い青春アニメ、だといえる。 「色づく世界の明日から」の恋愛話について、蛇足ながらもう少し語りたい。 筆者の個人的には、ヒロイン・瞳美は、ゆいとよりも山吹先輩との方が互いの相性が良さそうに思える。瞳美とゆいとは束の間の関係で別れていくことになるのだが、時間遡行の旅を経てなお、魂の繋がりが保たれる。 だが、恋愛話としてみると、恋愛感情をはっきり意識している山吹くんの告白が、あっさり振られてしまうのは、ちょっと残念だ。恋愛感情というよりソウルメイト的つながりのゆいとに、激しい恋愛の想いが負けるのは、昭和の恋愛観を持つ自分としてはちょっと悔しいのだ。われながら思い入れすぎなのは、自覚しているが。 ※公式HP
色づく世界の明日からとは? 色づく世界の明日からとは?